セルロースに不可逆的に吸着させることで
セルロースへのアミノ基の付与を環境負荷の低い方法で行う研究を進めている。
大学院理工学府 化学・生命系理工学
専攻 物質とエネルギーの創生工学コース
理工学部 化学・生命系学科 バイオ教育プログラム
研究概要
主たる研究対象は細菌由来のマイクロチューブ(鞘)です(走査プローブ顕微鏡像参照)。鞘を形成する細菌(有鞘細菌)は幾つか知られており、いずれも身近な水圏において水質浄化に寄与しています。鞘は特殊な菌体外高分子(鞘形成高分子)の自発的・自律的会合によって形作られると考えています。これまでにSphaerotilus属(鉄酸化細菌)、Leptothrix属(鉄・マンガン酸化細菌)、Thiothrix属(硫黄酸化細菌)の鞘を分析し、いずれの鞘の鞘形成高分子も複合多糖ないし複合糖質であることを明らかにしてきました。
アドバンテージ
Sphaerotilus属とLeptothrix属の鞘(マイクロチューブ)は両性多糖とジペプチドからなる複合糖質で、アミノ基、カルボキシ基、チオール基を有しています。これらの官能基を利用して化学修飾を施したり酵素を固定化したりすることにより機能性マイクロチューブを得ることが可能です。また、Thiothrix属の鞘の主成分は希少多糖であるグルコース―グルコサミン交互共重合体(グルコサミノグルカン)です。グルコサミノグルカンは水溶性で、マイクロチューブの希塩酸処理により遊離します。
セルロース素材に不可逆的に吸着するので素材表面にアミノ基を付与することができ、反応性の乏しいセルロースを化学反応なしで反応性素材に変えられます。
アミノ基を介して酵素を固定化したり化学修飾を施して素材表面の撥水性・濡れ性を調節したりすることもできます。
グルコサミノグルカンはセルロースナノファイバーの表面改質にも有効と考えられます。
事例紹介
有鞘細菌と酢酸菌を共培養することにより、バクテリアルセルロース中にマイクロチューブを埋め込んだ複合シートを試作しました。このシートを化粧用フェイスマスクとして使用するといくつかの有効成分の浸透が促進されるという実験結果が得られています。Thiothrix属から調製したグルコサミノグルカンの水溶に紙などのセルロース素材を浸漬すると素材表面にグルコサミノグルカンが吸着し、表面アミノ化セルロースが得られます。吸着したグルコサミノグルカンは酸性やアルカリ性の環境下でも脱離せず、尿素などのカオトロヒック試薬に対しても安定です。有機溶媒にも安定ですので、種々の化学修飾を施すことが可能です。グルコサミノグルカンをN-アセチル化するとハイドロゲル化するとともに、リゾチームに対する感受性が付与されますので、インプラント素材として活用できる可能性があります。
主な所属学会
日本農芸化学会 / 日本生物工学会 / 化学工学会 / 酵素工学研究会
主な論文
『Structural determination of the sheath-forming polysaccharide of Sphaerotilus montanus using thiopeptidoglycan lyase which recognizes the 1,4 linkage between alpha-D-GalN and beta-D-GlcA』「International Journal of Biological Macromolecules, 183, 992-1001」2021
『Aggregability of beta(1→4)-linked glucosaminoglucan originating from a sulfur-oxidizing bacterium Thiothrix nivea』「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 84, 2085-2095」2020
『Formation of gold particles via thiol groups on glycoconjugates comprising the sheath skeleton of Leptothrix』「Geomicrobiology Journal, 36, 251-260」2019
『Identification and characterization of the S-layer formed on the sheath of Thiothrix nivea』「Archives of Microbiology, 200, 1257-1265」2018
『Enzymatic degradation of β-1,4-linked N-acetylglucosaminoglucan prepared from Thiothrix nivea』「International Journal of Biological Macromolecules, 109, 323-328」2018
『Elongation pattern and fine structure of the sheaths formed by Thiothrix nivea and Thiothrix fructosivorans』「International Journal of Biological Macromolecules, 95, 1280-1288」2017
『Presence of N-L-lactyl-D-perosamine residue in the sheath-forming polysaccharide of Thiothrix fructosivorans』「International Journal of Biological Macromolecules, 82, 772-779」2016
主な特許
特開2020-002234 武田 穣「アミノ化セルロース及びアミノ化セルロースの製造方法」
特願2016-247538 柴垣奈佳子,グレゴア・セバスチャン,武田 穣「Evaluation of Thiothrix’s
sheath to enhance the value of biocellulose」
主な著書
松井 徹,上田 誠,黒岩 崇,武田 穣,徳田宏晴「生物化学工学の基礎」コロナ社 2018
主な研究機器・設備
ジャーファーメンター, 各種培養装置,走査プローブ顕微鏡, 各種光学顕微鏡, GC装置,HPLC装置,
各種電気泳動装置