
理工学府 化学・生命系理工学専攻
理工学部 化学・生命系学科 化学応用EP
研究概要
現在、世界は枯渇性資源の一方向的な消費から、再生可能資源を循環的に活用する持続可能な社会経済構造への移行期を迎えています。このような構造転換の中で、化学反応を効率化し、省エネルギーに貢献する触媒技術は、従来の石油化学分野にとどまらず、今後の持続可能な社会の実現においても極めて重要な役割を果たします。
我々は、炭素資源の循環利用を軸に、木質系バイオマスや廃プラスチックなどの未利用資源を再資源化するための固体触媒の研究開発に取り組んでいます。革新的な触媒および反応プロセスの創出に向けて、従来の枠にとらわれない自由な発想を重視しており、例えば、機械的エネルギーを化学反応に応用する「メカノケミカル反応」によって、化学的に不活性な材料への触媒機能の付与や、バイオマスとの高効率な反応を実現しています。
さらに、放射光施設を活用し、化学反応の進行中における触媒の挙動をリアルタイムで解析することで、触媒作用の本質的な理解を深めています。これらの取り組みを通じて、触媒化学および反応工学の観点から、持続可能な社会の構築に資する技術開発を推進しています。
アドバンテージ
(1)新反応:サーキュラーエコノミーに貢献するバイオマスの資源化やプラスチックのケミカルリサイクルを行っています。特に、メカノケミカル反応によってセルロース分解やポリエステルのモノマー化を達成しています。また、メタンと窒素酸化物による新しい変換反応を行っています。
(2)新触媒:従来に材料群にはない新しい固体触媒を開発してきました。多孔質窒化ホウ素固体酸塩基触媒、歪みを導入した固体酸触媒などがあります。
事例紹介
(1) メカノケミカル反応によるポリエチレンテレフタレートのモノマー化
PET粉末、ごく少量の酸化カルシウムと必要最小量のメタノールをボールとともに容器に入れて、ボールミル処理を数時間するだけで、簡単に83%の収率でモノマー(ジメチルテレフタレート)を合成することに成功しました(Chem Comm 2025)。
(2) メタンと窒素酸化物の低温変換反応
メタンは単純な分子であるものの、C-H結合の活性化は非常に困難です。我々は一酸化窒素(NO)を酸化剤として担持白金触媒を用いることで、低温にてメタンを活性化し、有用な化合物(HCN、NH3)を合成できることを見いだしました (ACS Catal 2021など)。
主な所属学会
触媒学会 / 公益社団法人石油学会 / 公益社団法人化学工学会
主な論文
(1) Mechanochemical Methanolysis of Polyethylene Terephthalate Using Calcium Oxide as Solid Base Catalyst: A Case Study, Chemical Communications, 2025
(2) Highly Porous Boron Nitride as a Metal-Free Heterogeneous Catalyst for Cycloaddition of CO2 to Epoxides, Catalysis Science and Technology, 2024
(3) Low-temperature Activation of Methane with Nitric Oxide and Formation of Hydrogen Cyanide over an Alumina-supported Platinum Catalyst,
ACS Catalysis, 2021