横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門
助教 信田尚毅シダ ナオキ
電気エネルギーを直接利用する有機合成:持続可能な化学合成を実現する有機電解合成
電解合成は、電気エネルギーを化学結合形成に直接用いることが可能な方法論であり、これを用いた有機合成を有機電解合成と呼びます。我々は、温和でクリーンな有機電解合成に基づく新たな有機物質合成法を開拓しています。
研究分野 - 分野
化学
研究分野 - 分科
複合化学
研究分野 - 細目名
合成化学

キーワード
有機電解合成 / 電気化学 / 有機合成化学

相談に応じられるテーマ
電解合成 / 電気化学測定 / 電極触媒 / フロー合成 / 固体高分子電解質

所属
横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門

E-mail
shida-naoki-gz@ynu.ac.jp

研究概要

電気エネルギーを直接利用する有機合成である有機電解合成の研究を研究しています。有機電解合成は、常温常圧で実施可能であり、酸化還元試薬を用いず電子を直接試薬として利用することが可能な、グリーンケミストリーに資する合成手法として近年高い注目を集めています。我々は、有機電解反応の新たな可能性を開拓すべく、反応装置・プロセスといった「ハードウェア」と、新規分子変換反応・新活性種の「ソフトウェア」の両面から研究を進めています。具体的には、マイクロリアクターリアクターを活用する電解合成プロセスの開発、固体高分子電解質型電解(PEM/AEM)を用いた有機電解合成、電解質イオンの配位を利用する有機電解反応開発、電解反応に基づく高分子化合物の合成、といった幅広い研究を推進しています。このようにハード/ソフトの両面から有機電解合成を推進する研究グループは珍しく、我々の強みであると自負しています。

アドバンテージ

電解反応は電子移動反応であるため、酸化還元反応を自在に行うことができます。旧来の化学反応においては、化学量論量以上の酸化還元試薬が求められるような反応も、電気エネルギーをエネルギーのインプットとし、電子を試薬として実施するため、安全かつクリーンな反応系が実現できます。また、再生可能エネルギーが直接利用可能である点も魅力的であり、カーボンニュートラル実現に向け、合成化学産業を変革していく上での重要技術となることが期待されます。

事例紹介

(1)フッ素化合物は医薬品開発上重要な化合物群ですが、一般的なフッ素化試薬は毒性や爆発性などが懸念されるものが多くあります。我々は、アルカリ金属フッ化物をフッ素源とする電解フッ素化反応を開発しました(J. Org. Chem. 2021, 86, 16128)。本手法を用いることで極めて安価なアルカリ金属フッ化物塩と電気エネルギーを用いた効率的で安全なフッ素化が可能となります。

(2)溶液中の支持電解質を必要とせず、エネルギー変換効率の高い電解法として固体高分子電解質電解が知られています。当該手法を用いた有機電解は、従来はプロトン交換膜を用いた事例に限られていましたが、我々はアニオン交換膜型電解装置、すなわちAEM型リアクターを用いた有機電解反応プロセスを世界で初めて報告しました(ChemSusChem, 2021, 14, 5405)。本手法を用いることで、これまで不可能であった様々な分子変換が可能になるものと期待できます。

主な所属学会

日本化学会 / 電気化学会 / 日本フッ素化学会

主な論文

『Electrosynthesis governed by electrolyte: Case studies that give some hints for the rational design of electrolyte Electrochemistry』・「Electrochemistry」・2022年
『Triple-phase Boundary in Anion-exchange Membrane (AEM) Reactor Enables Selective Electrosynthesis of Aldehyde from Primary Alcohol』・「ChemSusChem」・2021年
『Alkali Metal Fluorides in Fluorinated Alcohols: Fundamental Properties and Applications to Electrochemical Fluorination』・「Journal of Organic Chemistry」・2021年

主な著書

「有機電解合成の新潮流、第10, 16, 25, 27章」シーエムシー出版、2021年