古典絵画技術と画材の研究から「油彩テンペラメディウム」を完成させた。
大学院教育学研究科 芸術系教育専攻
大学院教育学研究科 教育実践専攻
研究概要
古代の絵画技術であるエンカウスティーク及び、テンペラやフレスコなど、中世からルネッサンス期に完成したヨーロッパ古典絵画技法を中心に絵画技術全般を研究しています。エンカウスティーク技法は2000年以上前の古代の絵画技法で、既にその伝承は途絶えています。その描画法は未だ謎めいていますが、私の研究目的はそれらの過去の謎解きではなく、当時の絵画技術の再現でもありません。勿論これらの古い技術には長い時間により証明された保証があり、知見としてもっている事は重要です。これらの古い技法を骨子として現代的コンセプトにより肉付けをされた、永遠に古く常に新しい表現としての制作が目的ですが、それには技法・材料の側面からの研究が必要になります。ここでは材料に於ける側面の研究をご紹介します。
アドバンテージ
古典絵画技術と画材の研究から完成した「油彩テンペラメディウム」は、0/W型エマルジョン理論の応用による、ヨーロッパ中世より存在するテンペラグラッサの変成型メディウムです。市販の油絵具に混合すると、油絵具は完全にテンペラ絵具として使用できます。つまり、通常は油性溶剤で希釈する油絵具を、水溶性であるテンペラ絵具に変えるメディウムで、日本には他に存在しません。従来の乳化剤の混合による水に溶ける油絵具は、所謂水で薄められる油絵具で、希釈材である水の蒸発後に絵具中の乾性油が酸化乾燥する仕組みです。本質的には油絵具である事には変わりがありません。このメディウムは市販の油絵具で描きながら、顔料を使わずに油絵具をそのままテンペラ絵具に変えて塗り重ねる事ができ、混合技法としての使用が可能です。これにより画家はチューブ入りの1本の油絵具を片手に、それを油絵具とテンペラ絵具の双方に変えながら制作できるのです。また、このメディウムを顔料と混ぜて中世の卵黄テンペラ絵具として使用する事も可能です。
事例紹介
左記の「油彩テンペラメディウム」は2012年助成金を受け企業との共同研究により試作製品化しました。
試作品は常温及び冷蔵保存に於ける耐久性の検査とともに、他の研究者にも提供し、使用に際しての利便性を向上させる為の改良を行なっています。
この他に、鍍金技法の為の光沢オイルギルディングメディウムを開発しています。
主な所属学会
IAA,UNESCO国際美術家連盟 / 日本美術家連盟 / 大学美術教育学会
主な論文
『チェンニーノ・チェンニーニによる金地背景及びテンペラ画の処方-使用可能な現代的処方ヘ-I』「横浜国立大学紀要」2007/2
『チェンニーノ・チェンニーニによる金地背景及びテンペラ画の処方-鍍金から卵黄テンペラヘ-』「横浜国立大学紀要」2008/2
『チェンニーノ・チェンニーニによる金地背景及びテンペラ画の処方-使用可能な現代的処方ヘ-Il』「横浜国立大学紀要」2009/2
『プロセスによる絵画制作(混合技法)に関する一考察』「横浜国立大学紀要」2010/2
『油彩画の基礎技法としてのグリザイユ技法』「横浜国立大学紀要」 2011/2
『転写素描上に於ける透明水彩の方法』「横浜国立大学紀要」2013/2
主な特許
油彩テンペラメディウム(準備中)
光沢オイルギルディングメディウム(準備中)
主な著書
「赤木範陸作品集」東邦アート1991
「AKAGI NORIMICHI-錬金術師の軌跡-」大分市美術館2001
長湯温泉ロマン「湯浴み」直入町芸術文化振興会2002
主な研究機器・設備
微細乳化装置デジタルウルトラトラックスT25,Laboratory High Power Mixer