その材料を用いてエネルギーロスの大きい空気極触媒への適応を目指して、
長きにわたり研究開発を行っている。
理工学府 化学・生命理工学専攻 化学応用・バイオユニット
理工学部 化学・生命系学科 化学応用EP
研究概要
国連が提唱する「持続可能な開発目標」(SDGs)に貢献するだけでなく、更にその先のエネルギー社会を目指して研究開発を行っています。学術的には界面で起こる物理化学現象、特に電気化学現象に焦点をあてて、電気エネルギーと化学エネルギー間の相互変換を利用したエネルギー貯蔵・利用技術を研究しています。工学(社会)的には再生可能エネルギーの利用拡大に貢献する水素エネルギー、特にグリーン水素(再生可能エネルギー由来の電力で製造した原理的にCO2フリーな水素)社会に必要な、また必要とされる電気化学デバイス(装置)の材料研究を行っています。具体的には水素利用デバイスである燃料電池と水素製造デバイスである水電解の電極材料の高性能化及び高耐久化、そしてそれらの応用展開を行うと共に、それらのデバイスの電極反応の基礎的解明を行っています。
アドバンテージ
わが国では家庭用燃料電池が2009年より、燃料電池自動車も2014年よりそれぞれ市販されています。 どちらの用途としても使われているのが、固体高分子形燃料電池(PEFC)です。PEFCの触媒には貴金属の白金が使用され、今後このままでシステムの量産が進むと電極触媒がシステムコストの約半分を占める懸念があります。そこで資源量も豊富でコストが非常に安く、更に安定性も高い非貴金属酸化物系材料に着目し、その材料を用いてエネルギーロスの大きい空気極触媒への適応を目指して、2000年からスタートし、現在に至るまで長きにわたり研究開発を行っています。更に燃料電池にとどまらず、水素発生装置である水電解にも貴金属系材料が使用されているタイプもあり(固体高分子形水電解)、今後の水素社会への展開をふまえて、低価格なシステム開発のために非貴金属酸化物系材料を用いて陽極触媒への適応を目指して10年以上研究開発を行っています。
事例紹介
固体高分子形水電解(PEMWE)(図1)は一部商用化された水電解の1つであり、アルカリ水電解と比較して、コンパクト化しやすいことや、より高純度な水素が得られる長所があり、分散型として期待されています。特に近年はグリーン水素製造用途として、大面積化なども進められています。陽極では酸化イリジウムが使用されています。イリジウムは白金の副生物で資源量も希少であり、今後のPEMWEの普及に伴い、材料及びシステムの高騰が懸念されます。そこで資源量も豊富でコストが非常に安く、更に安定性も高い非貴金属酸化物系材料に着目し、その材料を用いて陽極触媒への適応を目指して、研究開発を行い、希少性やカントリーリスクがない原料で構成した新規複合材料による萌芽性を見出して特許出固体高分子形水電解(PEMWE)(図1)は一部商用化された水電解の1つであり、アルカリ水電解と比較して、コンパクト化しやすいことや、より高純度な水素が得られる長所があり、分散型として期待されています。特に近年はグリーン水素製造用途として、大面積化なども進められています。陽極では酸化イリジウムが使用されています。イリジウムは白金の副生物で資源量も希少であり、今後のPEMWEの普及に伴い、材料及びシステムの高騰が懸念されます。そこで資源量も豊富でコストが非常に安く、更に安定性も高い非貴金属酸化物系材料に着目し、その材料を用いて陽極触媒への適応を目指して、研究開発を行い、希少性やカントリーリスクがない原料で構成した新規複合材料による萌芽性を見出して特許出願(特願 2020-168016、特開2022-060037)しました(図2)。これらの複合材料はイリジウム金属と比較するとグラム当たり1/1000のコストになる可能性があり、PEMWEシステムの抜本的な低コスト化に貢献できると期待されています。
主な所属学会
電気化学会 / 水素エネルギー協会 / 表面技術協会
主な論文
『Catalytic Activity of Zirconia on Zirconium for the Oxygen Evolution Reaction in Potassium Hydroxide』・「Materials Science and Engineering: B」・2021
『The Impact of Mn addition on Ta Oxide-Based Electrocatalysts for Oxygen Evolution Reaction in Acid』・「ECS Transactions」・2021
『Progress in Non-Precious Metal Oxide-based Cathode for Polymer Electrolyte Fuel Cells』・「Electrochimica Acta」・2010
主な特許
特願2017-201181「電極用担体材料及びその製造方法,電極材料,電極,並びに固体高分子形燃料電池」
特願 2020-168016 「電気化学システム及び電気化学システムの酸素極の製造方法」
主な著書
「水電解による水素製造技術~各種水電解法の基本・最新技術と世界の水素政策動向」・シーエムシー・リサーチ・2023
「水素の製造とその輸送,貯蔵,利用技術」・技術情報協会・2022
「Advances in Hydrogen Production, Storage and Distribution」・Woodhead Publishing・2014
「再生可能エネルギーと大規模電力貯蔵」・日刊工業新聞社・2012
主な研究機器・設備
電気化学インピーダンス装置、雰囲気制御回転式電気炉、触媒電極構造解析装置