理工学部 数物・電子情報系学科 物理工学教育プログラム
教授 片山 郁文カタヤマ イクフミ
超高速分光法の中でもレーザー1パルスで波形を計測する
シングルショット分光法と、ナノスケールのダイナミクスを観測する
テラヘルツ走査トンネル顕微鏡という独自の技術を開発している。
超短パルスレーザー技術を駆使して、これまでに観測することのできなかった物理量を観測し可視化することで、新たな応用を拓くことを目指している。これにより、テラヘルツイメージングやキャリアダイナミクス、フォノン振動の観測などが可能となる。
研究分野 - 分野
数物系科学
研究分野 - 分科
物理学
研究分野 - 細目名
物性Ⅰ

キーワード
光物性 / テラヘルツ分光 / 超高速分光 / レーザー技術 / 走査トンネル顕微鏡

相談に応じられるテーマ
テラヘルツイメージング / テラヘルツオシロスコープ / 超高速キャリアダイナミクス / 超短パルスレーザー / ナノスケール超高速イメージング

所属
大学院工学研究院 知的構造の創生部門
大学院理工学府 数物・電子情報系理工学専攻 物理工学教育分野
理工学部 数物・電子情報系学科 物理工学教育プログラム

E-mail
katayama-ikufumi-bm@ynu.ac.jp
ホームページ

研究概要

超短パルスレーザー技術を駆使して、これまでに観測することのできなかった物理量を観測し可視化することで、新たな応用を拓くことを目指しています。例えば、テラヘルツ・ピコ秒領域のダイナミクスを従来技術で観測することは極めて困難ですが、超短パルスレーザーを用いることで可視化することができます。これを用いると、テラヘルツイメージングやキャリアダイナミクス、フォノン振動の観測などが可能になります。また、高強度テラヘルツ波の発生や、高強度光パルスの波形を成型することも可能であり、これによる物性や化学反応の制御も目指しています。さらに、金属探針における電場増強効果を利用して、ナノ秒かつ超高速のダイナミクスを明らかにする研究も行っています。

アドバンテージ

研究室では、超高速分光法の中でもレーザー1パルスで波形を計測するシングルショット分光法と、ナノスケールのダイナミクスを観測するテラヘルツ走査トンネル顕微鏡という独自の技術を開発しています。超短パルスレーザーを用いた分光法では通常繰り返し測定を行う必要があるため、一回限りの現象や、不可逆な現象、ランダムな現象などを可視化することはできません。しかしながら、我々の開発しているシングルショット分光法ではこれらの場合も超高速の波形を計測することが可能であり、それによりイメージングの高速化やテラヘルツデバイス評価など新たな応用が開けると期待しています。また、テラヘルツ波は波長が0.3 mmと非常に長いため、通常テラヘルツ波を用いた分光法の分解能は波長程度ですが、金属探針を用いた走査トンネル顕微鏡と組み合わせることによってナノスケールの分光が可能になります。このような極限的分光法の開発により、様々な超高速現象のダイナミクス解明を目指しています。

事例紹介

*シングルショット技術を用いたテラヘルツラインイメージング

独自に設計した反射型エシェロンミラーを用いて、テラヘルツ波形をシングルショットで計測できる分光装置を開発し、さらに縦方向を試料の位置に対応させた、シングルショットラインイメージングシステムを開発いたしました。レーザー1パルスでイメージングできるため、高速かつカラーのラインイメージングが可能です。

*テラヘルツ走査トンネル顕微鏡を用いた電子制御

テラヘルツパルスの持つ、超高速・高強度という特質を生かし、金属探針を持つ走査トンネル顕微鏡と組み合わせることで、探針と試料の間のトンネル電流を超高速で駆動し、制御することに成功しました。これはナノスケール・超高速の応答を調べる独自の分光手法となります。

*超短パルスレーザーを用いた超高速フォノンダイナミクスの測定

10 fs以下という極めて短いパルス幅のレーザーを用いることで、パルスレーザー励起によって生じるコヒーレントなフォノンを計測することができます。これを用いて物質の振動モードを明らかにしたり、物性を制御したりすることが可能になるものと期待できます。

図1:ラクトース及びスクロースタブレットのマルチカラーテラヘルツイメージング。吸収スペクトルの違いが角周波数のイメージに現れている。ラインイメージング装置を用い、試料をスキャンすることで高速でこのような画像を得ることができる。[論文1参照]

図2:印加したテラヘルツ電場波形と、結果観測されたトンネル電流。バイアス電圧を掃引しながら測定したため、スパイク上の電流が多くみられ、その向きがテラヘルツ電場の向きと整合していることがわかる。このことは、テラヘルツ電場によって電流が駆動されていることを示している。[論文2参照]

主な所属学会

日本物理学会 / 応用物理学会 / 米国光学会 (Optical Society of America)

主な論文

[1] G. Asai, D. Hata, S. Harada, T. Kasai, Y. Arashida, and I. Katayama, “High-throughput terahertz spectral line imaging using an echelon mirror,” Optics Express 29, 3515 (2021).
[2] I. Katayama, K. Yoshioka, Y. Minami, M. Kitajima, S. Yoshida, H. Shigekawa, and J. Takeda, “Real-space coherent manipulation of electrons in a single tunnel junction by single-cycle terahertz electric fields”, Nature Photonics 10, 762-765 (2016).
[3] I. Katayama, M. Kobayashi, Y. Minami, C. L. Johnson, D. Salmans, N. R. Ellsworth, J. Takeda, and J. A. Johnson, “High-Acquisition-Rate Single-Shot Pump-Probe Measurements Using Time-Stretching Method”, Scientific Reports 6, 37614 (2016).

主な特許

特願2015-017672「テラヘルツ電場波形検出装置」

主な研究機器・設備

超短パルスレーザー
超高真空走査型トンネル顕微鏡
広帯域テラヘルツ分光装置